人生の最終段階における医療ケアの指針(終末期医療指針)
最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目した医療を目指すことが重要であるという考え方により、厚生労働省は2015年3月から「終末期医療」という言葉の使用から『人生の最終段階における医療』という言葉への切り替えを決定した。
そして、この考え方に従い、人生の最終段階を迎えた患者自身・家族と医療従事者が話し合い、患者にとって最善の医療とケアをする仕組みづくりをガイドラインとして示すことが、より良い医療に繋がるとの理由から、厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が策定された。
長崎北徳洲会病院においても、人生の最終段階を迎えた本人及び家族等と多職種(医師・看護師・ソーシャルワーカー等の患者に係わる医療従事者)が、最善の医療とケアを作り上げるプロセスを示すために指針を作成した。
(厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを規範とする)
本指針の対象
以下の健康状態の悪化を示す全般的な指標のうち2つ以上に当てはまる方を対象とする。
- パフォーマンス・ステータス(PS)*1が低いか低下しつつあり、改善の見込みが限られている
※目安としてPS3以上(日中の50%以上の時間を臥位または座位で過ごしている) - 身体的・精神的問題により、日常生活動作のほとんどを他人のケアに頼っている
- 過去6か月間に2回以上の予定外入院があった
- 過去3~6か月間に顕著な体重減少(5~10%)があり、かつ/またはBMIが低い
- 原疾患の適切な治療にも関わらず、苦痛となる症状が続いている
- 患者・家族等が、支持・緩和ケアを求めている、または原疾患の治療中止を求めている
人生の最終段階における医療・ケアの在り方
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医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多職種と話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。
また本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援が多職種により行われ、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要である。そのため意向表明は、この度の入院期間中の適応とする。 - 人生の最終段階における医療・ケアについて、医療・ケア行為の開始・不開始、医療・ケア内容の変更、医療・ケア行為の中止等は、多職種によって医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
- 多職種により、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である。
人生の最終段階における具体的な医療・ケアの方針の決定プロセス
1-1. 本人の意思の確認ができる場合
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方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者からインフォームド・コンセントのプロセスに沿い、適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。
そのうえで、本人と多職種との合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多職種としての方針の決定を行う。 -
時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、多職種により、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。
この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。 - このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度カルテに記載しておく。
1-2. 本人の意思の確認ができない場合
本人の意思確認が出来ない場合には次のような手順により、多職種の中で慎重な判断を行う必要がある。
- 家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善である医療・ケアの方針をとることを基本とする。
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家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善である医療・ケアの方針をとることを基本とする。
時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。 - 家族等がいない場合及び家族等が判断を多職種に委ねる場合には、本人にとっての最善である医療・ケアの方針をとることを基本とする。
- このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度カルテに記載する。
1-3. 多職種及び複数の専門家からなる委員会への審議申請
上記1及び2の場合において、医療・ケアの方針の決定に際し、下記等については、長崎北徳洲会病院倫理委員会で審議を申請することが望ましい。
- 多職種の中で、本人の心身の状態等により医療・ケア内容の決定が困難な場合
- 本人と多職種との話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケア内容についての合意が得られない場合
- 家族等の中で意見がまとまらない場合や、多職種との話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケア内容についての合意が得られない場合
人生の最終段階における医療に関する意思決定と意向表明
1. 終末期の延命治療に関する説明書・同意書
患者が、人生の最終段階と判断されたときには、医師等の医療従事者から適切な情報提供と説明および話し合いがなされた上で、①人生の最終段階における医療(蘇生処置を含む)に関する説明書 ②意向表明書に必要事項を記入してもらいカルテに保存する。
(※補足) 終末期の延命治療に関する説明書・同意書の解説
蘇生不要指示・DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)指示は日常的に多くの病院で出されている。
しかし、その捉え方は医療者個人個人で異なっており、DNAR指示によってCPR以外の他の治療に対しても消極的になり、生命維持治療も制限されてしまい、実質的に延命治療の差し控え・中止となっている場合さえある。
そこで、CPR以外の他の医療処置内容についても、具体的に十分な考慮が必要であるという趣旨のもとに、この書式を使用する。
尚、本人の病状が変化した場合などには、その内容を再評価すべきである。
2. 診療録記載と指示の周知
終末期医療に係わる患者または家族との医療・ケアの決定までの内容については、以下の事項を含むことが求められる。
1) 医学的な検討とその説明
- 医学的な妥当性・適切性の判断による人生の最終段階であることを記載する。
- 説明する対象者・同席者を記載する。本人以外の場合、本人との関係を記載する。
- 本人あるいは家族等にインフォームド・コンセントのプロセスに沿い十分な情報と説明した内容を記載する。
- 情報と説明に際して、本人あるいは家族等による理解や受容の状態、意思を記載する。
例)
・本人あるいは家族が、どのようになりたいと考えているか
・医療に期待していること
・最も優先して欲しいこと
・受け入れがたいことや、つらく感じていること
・相談したい相手や相談して欲しくない相手 など - いつでも変更や撤回、話し合いの申し出が出来ることについての説明を記載する。
2) 人生の最終段階における対応について
- 本人の意思(またはリビングウィル)の内容を記載する。
- 本人が意思を表明できない場合、家族等による本人の推定意思を記載する。
- 家族等の意思を記載する。
- 本人にとって、最善の治療方針について検討事項を記載する。
- 多職種のメンバーを記載する。
3) 状況および対応が変化した場合、その変更について記載する。
【参考文献】
蘇生不要指示のゆくえ 医療者のためのDNARの倫理:株式会社ワールドプランニング出版 箕岡真子著(2012)
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン:厚生労働省(2018)
終末期医療に関するガイドライン:全日本病院協会(2016)
救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン:日本集中医療学会、日本救急医学会、日本循環器学会 (2016)
高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン:日本老年医学会 (2012)
*1パフォーマンス・ステータス(PS)とは
0 | 全く問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。 |
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1 | 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事、事務作業 |
2 | 歩行可能で、自分の身の回りのことは全て可能だが、作業は出来ない。日中の50%以上はベッド上で過ごす。 |
3 | 限られた自分の身の回りのことしか出来ない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 |
4 | 全く動けない。自分の身の回りのことは全く出来ない。完全にベッドか椅子で過ごす。 |
以上はECOG(米国の腫瘍学の団体の1つ)が定めた指標を日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が日本語訳したもの。