院長の言葉

ながい坂 ~コロナ禍での病院移転~

長崎北徳洲会病院 院長鬼塚 正成

令和3年5月1日、滑石の旧病院から長与北陽台団地に引っ越した当院は、ゴールデンウィークの中、5月3日に一本の電話で急遽コロナ病棟を作る方向で動き出しました。県から許可を得て病棟を再編し、まずは4床を確保。希望者を募って看護師チームを作り、6日からクラスターが発生した病院から患者さんの受け入れを開始しました。国が打ち出した、コロナ感染で発症から10日経過して感染力が低下してから民間病院では受ける「10daysルール」は最初から無視したことになります。結局、準備した4床は全て埋まり、その後急速に第4波は収束しました。

そして迎えた8月の第5波、公的4病院に加え当院が民間病院としては初めて、長崎医療圏で保健所からの新規コロナ患者さんのトリアージを任されることになりました。地域性を考慮して西彼保健所管轄圏内、長崎市北部の患者さんが対象で、当院の長与町出身の呼吸器内科:池田医師が全てを担当しました。軽症であっても危険因子があり食事が入らない方もいます。第5波初期では、入院して点滴、流動食、抗体カクテル療法をして自宅療養へ戻すため、西彼保健所から休日も専用車を出して貰いました。ワクチンを2回接種したにもかかわらず、ブレークスルー感染した高齢者、濃厚接触者となった認知症患者さんを受け入れると、経過中にPCR陽性になったりなど、患者さんの状態には当然ながら違いがあり、看護の負担度も違います。サポート医としての活動が開始された第5波後半は、ホテルや自宅で療養中に呼吸苦となり、肺炎で中等症としてレムデシベルが必要な患者さんを当院で受け入れることになり、初期とは患者さんの治療内容にも変化が出ました。

総じて第5波はスマートフォンが使える若い世代が多く、自動血圧計、体温計、パルスオキシメーターを各病室へ置いて患者さんに測定してもらい、その報告を受けて記録することが可能となり、看護師が患者さんと接する時間を減らすことが出来ました。また、医師はiPadを使って患者さんと面談できますし、リハビリは当院の理学療法士が作成した動画をQRコードで読んでもらい、スマホで見ながら自室内で運動してもらうことが出来ました。第3波でクラスターを経験した当院は、特にスタッフが感染して院内感染が起こらないように最大限の注意を払いました。

一般市民向けのワクチン接種は週2回、午後から実施しましたが、残念ながらワクチン供給不足となり、5~7月は780人、8月は540人、9月は354人、10月は70人と漸減していき、10月第2週から週1回に減らします。

気付いてみると、コロナ対策、非コロナ疾患の救急医療に携わっていると5月からあっという間に時間が過ぎていきました。山本周五郎著、ながい坂にこういうくだりがあります。「一足跳びに山の頂点へあがるのも、一歩、一歩としっかり登ってゆくのも、結局は同じことになるんだ、一足跳びにあがるより、一歩ずつ登るほうが途中の草木や泉や、いろいろな風物を見ることができるし、それよりも一歩、一歩を確かめてきた、という自信をつかむことのほうが強い力になるものだ。」

コロナ禍のながい坂にもいつかは終わりがあるはずで、一歩一歩確かめて登ってみたいと思います。これから長崎北徳洲会病院をよろしくお願いします。

2021年10月院長 鬼塚 正成