航空機の重大インシデント経験

今回は鬼塚院長が経験した航空機の重大インシデントについて、取材を受けた長崎新聞の記事にて皆様にお伝えいたします。
2024年6月22日 全日空372便 長崎発名古屋行
6月22日の長崎発中部行き全日空372便は飛行中に機内の気圧が異常に低下し、乗客乗員11人が体調不良を訴えた。国土交通省は26日、事故につながりかねない重大インシデントに認定した。同機に搭乗していた長崎市の50代男性医師が取材に応じ、機内での様子や恐怖、体調不良などについて語った。
国交省によると、機種はボーイング737。全日空グループのANAウイングが運行し、乗客98人、乗員6人だった。午前10時半ごろ、和歌山県みなべ町付近の高度約7600㍍を飛行中、与圧系統に不具合が発生し機内の気圧が低下したため、緊急事態を宣言。高度約3千㍍まで降下した。その後、気圧が正常の範囲内になったため、宣言を解除。同11時ごろ中部空港に着陸した。
男性は名古屋市で開かれる会議に出席するため、同機に搭乗。ほぼ定刻の午前9時半すぎに長崎空港を出発。当直明けで「離陸してすぐに眠っていた」が、同10時半ごろ寒さで「ヒヤッとして目覚めた」。間もなく酸素マスクが降り、「急降下しています。マスクを着けてください」と機内アナウンスがあった。焦っていたためか、着用に手間取ったが、強く引っ張ると留め金が外れた。
「急降下」「酸素マスクの着用」。不安材料が重なり、「墜落してしまうかも」と考えた。頭に浮かんだのは仕事のことではなく、家族のことだった。スマートフォンに「お父さんはだめみたいだから仲良く健康に過ごしてください」と家族へのメッセージを残し、機内の状況や窓の外の写真を数枚撮影した。
「恐怖のせいか、国民性なのかは分からないが飛行中は騒ぐ人はいなかった」が、着陸後、乗客たちは安堵の表情を浮かべながら「怖かった」「どうなるかと思った」と顔を見合わせながら口々に話していたという。
空港で地上職員が車いすなどを用意して待機していた。緊急時に備えていたことを知った。急激な気圧の変化で耳に痛みがあったが、会議出席のため、急いで移動した。
ホームページにトラブルの状況説明が掲載されたり、健康状態を確認するメールが届いたりすると思っていたが、当日も翌23日も全日空からの連絡はなかった。
長崎で日常生活に戻ると体調に異変が出始めた。フラッシュバックで未明に目覚めた。人生で初めて心療内科を受診。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。事件や事故、災害など生命の危険や強い恐怖を感じるような体験をきっかけに引き起こされる精神的な障害だ。
「メンタルは強い方だと思っていたので診断結果に驚いた。ほかの乗客や客室乗務員も同じように怖かったと思う。必要なケアをしてほしい」と気遣う。
全日空からはトラブルの説明や体調を気遣う内容のメールが後日届いた。当初は不信感もあったが、今は「現場のパイロットや客室乗務員はトラブルの中、最善を尽くしてくれた」と感じている。
長崎新聞(山口栄治)6月29日 朝刊掲載
2024年(令和6年)7月院長 鬼塚 正成